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宇都宮地方裁判所 昭和42年(行ウ)9号 判決 1975年10月16日

原告 有限会社飯塚毅会計事務所

被告 鹿沼税務署長

訴訟代理人 玉田勝也 桜井卓哉 渡辺芳弘 ほか四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求の趣旨<省略>

第二  請求原因

(一)  原告は肩書住所において税務会計事務を事業内容としている会社であり、飯塚毅は右会社の代表取締役であり、飯塚るな子は取締役である。

原告の昭和三五年度(昭和三五年二月一日から昭和三六年一月三一日まで)、昭和三六年度(昭和三六月二月一日から昭和三七年一月三一日まで)、および昭和三七年度(昭和三七年二月一日から昭和三八年一月一三日まで)の三会計年度の法人税について、被告はそれぞれ請求の趣旨第一項(1)いし(3)記載の日に更正決定をした。その更正の内容は、別紙第一ないし第三表<省略>記載のとおりである。これに対し原告はそれぞれ異議申立および審査請求をしたが、いずれも棄却された。

右更正の理由は、原告の代表取締役飯塚毅の旅費中、日当一日当り三、〇〇〇円および取締役飯塚るな子の日当一日当り二、〇〇〇円を損金として処理したのを、被告がそのうち一、〇〇〇円だけを認め、残額を否認したことにある。

(二)  しかし、右の更正決定は違法である。その理由は、別紙昭和四九年二月二〇日付原告準備書第三項記載のとおりである。そこで、原告は右違法な更正決定の取消をもとめる。

第三  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨の判決をもとめる。

第四  請求原因に対する被告の答弁

請求原因(一)の事実は認める。同(二)の主張は争う。原告の主張に対する被告の反論は別紙昭和四九年四月一八日付被告準備書面記載のとおりである。

理由

請求原因(一)の事実は当事者間に争いない。

およそ民間企業の旅費規定において定額制を採用し、日当の定額を定めた場合、その金額が物価事情、企業の規模など諸般の事情に照らし、社会通念の許容する範囲を超えた場合には、税務官庁がその超過すると判断される部分の経費性を否認できることは当然すぎるほど当然のことである。そうでなければ、「日当」という名による合法的脱税がいくらでもまかりとおることになるからである。

なお、原告は、旅費規定の内容が民法第九〇条(公序良俗違反)に該当しないかぎり、税務官庁がこれを否認できない、と主張するが、まつたく独自の見解であつて、採用できない。

そして<証拠省略>を総合すると、日当のうち一、〇〇〇円を超える部分を否認した被告の判断は右にのべた意味において正当であつたものと認められる。

したがつて、本件更正決定には、被告の主張する違法性を認めることができないので、その取消をもとめる原告の本訴請求は失当であるから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺均 田辺康次 市瀬健人)

(別紙)昭和四九年二月二〇日付け原告準備書面

第一・第二<省略>

第三 所謂規定について

一 所謂旅費、日当の性格

(一) 我が国における税法は憲法第八四条の規定に基き、あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。とあり所謂租税法律主義をつらぬいている。

而して所謂旅費については現行法では所得税法第九条第一項第四号の規定により本件事案当時は旧所得税法第六条第一項第三号により非課税とするとのみ規定され他に何等の規定はない。

(二) 然らば税法上における旅費とは如何なるものを云うかを考えたい。

(1) 一般的に旅費とは勤務地を離れて業務上の目的で旅行する場合の費用と解されている。即ち、

第一、勤務地から離れること。

第二、業務上の目的を持つこと。

第三、旅行の費用がかかること。

の要素が必要である。而して更に旅行主体の身分的な条件によりその取扱いを区別しているものと、しからざるものとがある。

我が国の旧所得税法(昭和三五年当時)では、業務旅行の主体が給与所得者である場合は、その旅費は「非課税所得」としての取扱いを受け(旧所得税法第六条第一項第三号)、事業所得者である場合はその旅費は単に「必要経費」として収入金額からの控除項目を構成するにすぎない(同法第一〇条第二項)、即ち旅行主体が単に身分的に給与所得者なのか、事業所得者なのかという条件の相違により適用条文が異なり、取扱いも異なつている。

このように我が国の税法上の旅費概念が異なることは、諸外国にはその例を見ないところである。

(A) 米国税法

所得からの控除項目として規定し、非課税所得としての概念は認めていない。一

旅費とは勤務地を離れ、業務上の目的で旅行する場合の費用である。とする点では我が国の概念に一致するが、勤務の場所を雌れるというその場所とは行政地域(例えば、ニユーヨーク市の如し)を指し我が国の考え方と異なる。

従つて我が国の公務員はじめ民間の給与所得者が陸路四キロ以上とか、二五キロ以上とかであれば同一行政地域内でも旅費を受給していることは、その取扱を全く異にする。

又、旅行に要した費用も、実費であれば、いくらでも良いというのでなく「通常の必要な経費」に限定されるとの基準が設けられている。

従つて通常の必要な経費でないと認められると控除項目に入らないのである。

又、業務上の目的であるが、これに便乗して私用をたした場合は全旅行時間のうち私用に使つた時間が二五パーセント末満であれば容認され、超えた場合はその割合で旅費の全額が否認される。

以上の如く米国の旅費規定は所得からの控除項目という概念構成でつらぬかれ給与所得者たると事業所得者たると区別されていない。即ち実費精算主義に立つものである。

但し、一九六二年一月の法改正によりその「通常の必要な経費の額」を社会階級の上下を問わず、一律に一日当り二五ドルの日当額を認める法定定額主義に改正され現在に至つている。(二七四条)

(B) 英国税法

英国も米国と同じく所得からの控除項目として規定し、非課税所得とはしていない。而して実質的には実費以下主義をとつている。(令九四七四号)

(C) 西独乙税法

この点では英、米法と全く同一と見られる。

(D) フランス税法

納税者の選択で実質精算主義か定額主義かの選択を認めている。(所得税法第三九条)

(2) 非課税所得としての旅費の実体

旧所得税法第六条は「左に掲げる所得については所得税を課さない」と規定している。これは給与所得者の旅費規定であるから、給与所得者に関する限り旅費は、言葉の正しい意味での実費精算主義でなく、その内に所得要素を認め、その所得要素をあえて非課税とする制度を確立したものである。

給与所得者の旅費が非課税所得であり実費精算主義あるいは証拠主義をとらないとすれば、それは我が国の税法が「定額主義」を前提として制定されているといわなければならない。(旅費法精義、大蔵省、岸本晋、井崎健二共著、一頁~五頁参照)、即ち国家公務員等の旅費に関する法律から実例を挙げてみると、

(イ) 旅費名目の死亡手当(旅費法第三〇条、四〇条)どれは遺族が死亡地まで実際に旅行するか否かは問わず支給される。

(ロ) 旅行手当と称する渡し切り旅費。(法第四一条)

(ハ) 支度料と称する被服手当。(法第三九条)

(ニ) 日額、旅費(法第三六条)

常時出張する職員に対して出している。

(ホ) 日数に応じて支給される日当。(法第二〇条、第三五条)

午後一一時半に夜行列車に乗つて出発してもその日の全日当が支給される。

(3) 以上の如く我が国の旅費は、国家公務員に対し、旅費法の規定はあるが実費精算主義とは無縁な各種の給与的性格を含めた定額制を定めており、而もこの法律の民間人への準用の規定は全く無く、ただ「非課税所得たる旅費」の制度のみがあるのみであ

る。

依つて民間会社では、その経営における経済的な合目的性を考慮して一種の自治規範たる旅費規定を作らざるを得ないのである。

二 民間会社で定めた旅費規定の性格

(一) 我が国の税法が給与所得者の旅費につき、実費精算主義、又は証拠主義をとらず「定額主義」を取つていることは前述の通りであるが、民間会社の場合は会社の実情に添つて「旅費規定」を規定している。これは一種の自治規範である。ここに定められた規定を収税官が簡単に否認することができるであろうか。

税法は国民に対してこれ以上課税すべきでないという限界を示したもの(昭和四〇年三月二五日第四八四国会衆議院大蔵委員会議事録第二五号参照)であるとされている。

従つて「非課税とする」という規定に反する規定とは民法第九〇条の趣旨に反する場合のみ民間法人の旅費規定が無効とされるものと考えられる。

(二) 民法第九〇条は如何なる場合に適用されるか

(1) 所得税法の非課税事項(第九条一項四号、旧税法六条一項三号)は給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行し、若くは転任に伴う転居のため旅行をした場合、又は就職若くは退職をした者、又は死亡による退職した遺族が、これらに伴う転居のための旅行をした場合にその旅行に必要な支出に充てるため支給される金員で、その旅行について通常必要であると認められるもの。と規定されているのみである。

(2) 右規定に対し所得税取扱通達(旅費関係)として国税庁より、下級官庁にあてたもので(通達の法律的性格は国家行政組織法第十四条第二項に基いて上級官庁から下級官庁に対する訓示、命令でその拘束力は下級官庁にだけ及び国民を拘束するものでない。第四八四衆議院大蔵委員会における昭和四〇年三月二五日付政府委員の答弁参照)。即ち旅行に必要な支出に充てるため支給される金員とは次に掲げる場合に雇用主等からその旅行に必要な鉄道運賃、船賃、車馬賃、日当、宿泊料、食卓料、移転料等の支出に充てるために支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものに限られたのであるから留意する。

(A) 給与所得を有する者が勤務する場所を離れて、その職務を遂行するため旅行した場合。

(B)省略

而して、その旅行について通常必要であると認められるもの(暫定通達二三)とはその旅行の目的、目的地行路もしくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容および地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲の金員をいうのであるから留意する。この場合において旅行に必要な支出に充てるため支給される金員が、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられる範囲をこえるときにおける、そのこえる部分の金額は次に掲げる所得の収入金額に算入するのであるから留意する。

<以下省略>

次に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲のものとして次の条件のいずれにも該当するものをいうとして、

(イ) その支給額の算定の基準がその支給をする者の雇用する従業員(法人の役員を含む)のすべてを通して適正に認められ、かつ、その基準によつて支給されているものであること。

(ロ) その支給額の算定の基準は、その支給をする者と同業種、同規模の他の雇用主が一般的に支給している金額の算定基準にてらして相当と認められるものであること。としている。

この通達によれば所得税法の所謂非課税とは収税官が納税者に対して同業種、同規模の他の雇用主が一般的に支給している金額を算定基準にすることが命じられているので末端ではこの基準で申告が是認又は否認されること明らかである。

法は租税法律主義を貫き何人も法律によらずに課税することができないのに現実の申告納税については規定に従って納税してもこの通達によつて是否認されたのでは基本的な考え方を逆転せしめることになる。

法は非課税所得たる給与所得者の旅費については、定額主義を取つているのであるから、支給額の算定の基準がその支給をする者の雇用する従業員のすべてを通して適正に定められ、且つその基準によつて支給されているもの、即ち本件の如く有限会社飯塚会計事務所旅費規定により定められたその基準によつて支給されている場合は当然定額主義の要件を備えているので簡単にこの規定を否認するのは越権行為である。ただ本規定が民法第九〇条の規定に反しているものであればその時はじめて無効となるのであつて、然らざる限り定額主義の規定が無効とされるのは理由がない。

即ち、右規定が無効となる場合を考えれば、

(A) 国家的制度を害する行為かどうか。例えば競売における談合契約及びこれに付随する代償金支払契約は公序良俗に反し無効(昭和一四年(オ)第五三四号同年一一月六日大判)。

(B) 法規違反行為かどうか。

(C) 取締法規または行政処分の附款に反する行為があるかどうか。

等少くとも公序良俗違反に該当するような規定がない限り有効な定額規定と見なければならない。

それを取締的な基準で申告を否認することは法の解釈を誤り且つ収税官の末端のテレビにまかせることになり極めて危険である。

三 本件旅費の申告と被告の更正の誤り

(一) 前記の如く本件旅費は旅費規定に基き各従業員にすべて適正に定められた範囲において支給されている。

然らばその基準によつて支給された旅費が何故否認されるのか不明である。

(二) 然るに被告は原告会社の代表取締役飯塚毅に対して支給した自社の旅費規定に基く旅費日常額のうち、

(1) 昭和三五年分(三五年二月一日より三六年一月一三日迄)について一日当り金一、〇〇〇円を超える日当は実情にそぐわないとして、これを同人に対する給付とみなした。又、原告会社が取締役飯塚るな子に対して自社旅費規定に基き支給した旅費日当額のうち、日当一日当り金一、〇〇〇円を超える部分についても前同様の理由により損金不算入とした。

(2) 昭和三六年分(三六年二月一日より三七年一月三一日迄)

(3) 昭和三七年度分(三七年二月一日より三八年一月三一日迄)

の各年度中の代表取締役に対して支給した自社の旅費規定に基く旅費日当額のうち日当金一、〇〇〇円を超える分は、その日当が実情にそぐわないとして否認した。

(三) 而して被告は原告の支給した日当が実情にそぐわないとして否認し且つ原告は自主的に右超過日当を課税標準額として源泉所得税を徴収して納付しているのではないかと主張するので反論する。

実情にそぐわないかどうかの判定の基準は前述の如く民法第九〇条の規定する公序良俗に反するかどうかの基準により判定されるべきもので、単に主観的に実情にそぐわないというだけで否認されるべき筋合のものではない。

又、自主的に源泉税を納付したことについては当時原告会社の代表取締役・税理士飯塚毅は、昭和三十八年九月二十八日午前十一時関東信越国税局から、

(1) 関与先全部(約六〇〇社)の旅費日当中一、〇〇〇円を超すものは脱税であるから、三ケ年間遡及して、全面的に修正申告させろ、

(2) 別段賞与と称する企業成果配分の賞与は、全部脱税であるから、これを出した全関与先に修正申告を出きせろ、

(3) 職員の非違行為を、自からあばいて、列挙して提出し、これを修正しろ、

(4) お前の事務所を経由した現在の税務訴訟二件を取り下げさせろ、

等の要求を突きつけられ(国税庁法律顧問、弁護士、法学博士田中勝次郎先生発行の証明書参照、高田茂登男著税務署への告発状収録一二三頁)、できない旨を返答したところ、昭和三十八年十一月十七日から、連日八十名の調査官を動員しわが国の国税庁開設以来の大規模な弾圧的調査(延べ五、四〇〇名に及ぶ)を受けることになつたが、この弾圧調査開始の直前、十月二十八日に時の直税部長安井誠氏に呼び出され田中博士の面前で猛烈な脅迫を受け、弾圧調査の回避を願う一手段として翌二十九日、心ならずも税額納付の挙に出たに過ぎないのである。然るに当局の悪意は、実は飯塚税理士抹殺にあり、昭和三十九年三月十四日、「各得意先の法人税を免しめる目的をもつて、同社従業員に対し架空の別段賞与を計上する等の不正の方法により虚偽の確定申告をなすように指導した」として原告の会社の従業員四人が脱税教唆の嫌疑で検挙され(後日起訴されたが無罪確定)、その後も引続き徹底的に捜査を続行され一年四ケ月に及んだのである。

よつて原告は更正された部分につき若し源泉所得税を納付しなければ直ちに脱税犯として処分するなどとおどかされたので己むなくこれを納入した。納得して納入したものでなく、己むなく納付したものである。

而して源泉徴収の対象となるべき所得の支払がなされるときは支払者は法令の定めるところに従つて所得税を徴収して国に納付する義務を負うのであるが、この納税義務は右の所得の支払の時に成立し同時に確定するものとされている。即ち源泉徴収による所得税については申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長の更正決定賦課税方式による場合の税務署長の処分でなくして、その税額が法令の定めるところに従つて当然に、自動的に確定するものとされるのである。

従つて右にいわゆる確定とは、もとより行政上または司法上争うことを許さない趣旨ではない。故に原告が源泉所得税を納付したとしても本件の訴訟には何等影響はない。

四 以上の如く被告の本件旅費日当に関する更正決定は違法な決定であるので取消さるべきものと信ずる。

(別紙)昭和四九年四月一八日付け被告準備書面

被告は、原告の昭和四九年二月二〇日付準備書面の第三に対して反論するとともに、旅費日当の法律上の性格を一般的に述べることにする。

なお、超過日当について原告の処置を是認した理由は、後記求釈明に対する回答をまつて明らかにする。

一 旅費について

旅費は、職務を遂行するために通常必要な旅行を行なつた場合、その旅行実費を弁償するために受けるものである。よつて、それは本来現実に必要とされた一切の費用を弁済すべきものであり、また、それで十分であるが、旅行のため必要とされた費用であるかどうかの判定は、結局一人一人旅行者の跡をつけて行かなければわからない問題であつて、その客観的な判定は極めて困難である。(旅費法精義 大蔵省岸本晋、井崎建二共著三頁参照)

したがつて、国はもちろん地方公共団体、企業等の旅費支給者の多くが、いわゆる定額旅費制度を採つている。すなわち、この制度の趣旨は、旅行経路、利用交通機関及び宿泊施設等について、個々にその実態をは握したり、その実費費用を計算することの困難煩雑をさけるため合理的な根基により社会通念上の実費に近い定額をあらかじめ規定して事務的手続を簡素化しようとしたものである。

そこで、税務の面においても、右の定額が本来の実費弁償に代えて社会通念上妥当な合理的基準に基づき算定されているならば、その定額と旅費実費との間に若干の過不足があつても、それは僅少の差に止まるであろうから社会通念及び課税技術上あえてその過剰分については課税を行なわないことにしているわけである。

そして、旅費が非課税とされるのは、旅費の支給をうけても、それが社会通念上相当なものであれば、それは旅行により費消されるものであると認められるからのことであり、したがつて社会通念上必要と認められる範囲をこえるような著しく多額の旅費の支給がなされるような場合には、それが旅費という名目で支給されたとしても、その分が全部非課税とされるわけではない。

税法は、非課税所得としての旅費額の範囲あるいは損金として認められる限度については直接これを規定していないが、それは当該企業の規模業態及び業績その他の諸状況からみて当該企業の業務遂行上通常必要なものであると一般的に認められる程度のものでなければならないことは当然のことである(高松地裁昭和三二年一〇月一一日判決税務訴訟資料二五号八二一頁参照)。

二 日当について

日当とは、旅行中の昼食費の補給費及びこれに伴う諸雑費並びに目的地たる地域内を巡回する場合の車賃等の交通費及び諸雑費にあてるための旅費であると解され、このうち、おおむね昼食関係費が半分その他の費用が半分という構成がとられているのが通常であるから、旅行の時間的、距離的条件によつて日当の定額に差異を付するのが合理的であるとされている。

この点、たとえば国家公務員等の旅費に関する法律においては次のように区分規定されているとともに、日額旅費という例外制度が設けられており、交通費、日当等の旅費に代えてそれらが複合された形の日額旅費が定められている。

支給金額

支給条件

<1>日当定額

<1>鉄道百キロメートル以上の旅行(普通旅費)

<2>日当定額の1/2

<2>鉄道百キロメートル未満の旅行(普通旅費)

在勤地(在勤官署から半径八キロメートル以内の地域)内旅行で行程一六キロメートル以上又は引き続き八時間以上の場合(日額旅費)

<3>日当定額の1/3

<3>在勤地内で行程八キロメートル以上一六キロメートル未満の場合又は引き続き五時間以上八時間未満の場合(日額旅費)

<4>日当又は日額旅費を支給しない。

<4>右<3>に満たない場合

ちなみに、国家公務員についての日当定額(昭和三二年四月一日から昭和三七年三月三一日まで適用)は別表<省略>の如き金額であり、実費弁償としての日当の性質上、その金額は、原告のそれより著しく低いものとなつている。

三 原告会社の旅費規定について

法人税の所得の計算といえども企業会計の帳簿記録等をもとにする会計処理を離れて抽象的にこれを行なうことはできない。現在の企業会計の成果計算が法人税法の企図する公平な所得計算に一致する限りこれを是認し、税法は法律として最少限度必要な要求を規定することによつて、所得の計算を可能な限り自主的かつ合理的に行なえるよう願うものである。したがつて、被告は、定額主義の規定すなわち原告作成の旅費規定それ自体を無効と主張しているのではない。

よつて、原告の民法九〇条に照しての主張は本件とは関係がないと思われる。

もつとも、公序良俗が行為の社会的妥当性を意味するとするならば、右旅費規定によつて支給した旅費日当額のうち、ききに述べた超過額は、社会通念上妥当な合理的基準に適合するものとはいえないし、原告も自主納付したごとく、また、被告もそれによつて処理を行なつたごとく原告の業務遂行上通常必要と認められるものではない。

求釈明

原告は、昭和四九年二月二〇日付準備書面一四丁目表七行目以下において、「従つて右にいわゆる確定とは、もとより行政上または司法上争うことを許さない趣旨ではない。故に原告が源泉所得税を納付したとしても本件の訴訟には何等影響はない。」と主張しているが、その趣旨は、原告自らが自主的に納付した源泉徴収所得税についても無効であるとして争うということか、また仮りに司法上争うとした場合はどのような手続きによつて争うのか明らかにされたい。

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